いつも、同じ夢を見ていた。
真っ暗な闇、かすかに薫る鉄のにおい。
下を向けば、自分の顔-----
唐突に目が覚めた。
それから少しして目覚ましがなる。
新しくなった目覚まし時計は、春休みボケした頭にちょうどいい。
聞いているだけで頭を覚醒させてくれる。
横になったままで、体が起きたのを確認する。これを怠ると後で痛い目を見るはめになる。
携帯で日にちを確認する。
4/10。入学式の日で間違いない。
鳴っている時計を止め、ポスターとCDの散乱した部屋を出て階段を下りる。
我が家---倉木家---は少し家の構造がおかしい。
一般家庭の二倍はありそうな敷地のくせに、やたらと階段が急なのだ。
小さい頃、一度だけ落ちたことがある。
普通、階段を落ちる、というのは大体階段を転がり落ちることを言うと思う。
しかし、あの時は違った。
体が宙に浮いて、そのまま床に落ちたのだ。
低いところから落ちたからいいようなものの、もし、と思うとぞっとする。
そこまでに急な階段なのだ。
そんな難関を潜り抜け、無事に居間に到着する。
うちは両親が共働きなので、大体食事は自分で作ることになってる。
前の日に用意していた味噌汁を火にかけ、魚をグリルで焼く。
用意が出来るまでの間に制服に着替える。
さすがに入学式に授業はないので、教科書は用意しなくていいだろう。
着替えが終わったところで味噌汁が温まる。
ご飯と味噌汁をよそい終わって魚が焼ける。よし。
一人で食べるのは味気ないという奴もいるが、それは慣れだと思う。
二年も同じことをしていたらさすがに慣れるというものだ。
いつもと変わらない手際で朝食を終え、髪を整えて玄関へ向かう。
靴を履こうとすると呼び鈴が鳴り、すぐに鍵を開ける音がする。
何か声が聞こえるが、朝早くからそんな真似をするのは幼馴染しかいないので無視。
靴を履き終わったところでようやく扉が開く。
「お、ちゃんと起きてる」
えらいねー、とまったく立派でない所業で家に入ったこいつ---真紀---は発言する。
「わたしの贈った目覚まし、ちゃんと効いたみたいだね」
「いや、全然。鳴る前に起きたし」
きょとんとしている真紀の横を通って先に外に出る。
その時に、髪が少し顔に触れた。
あまり女らしくない短い髪は、小さい体に良く似合っている。
一度伸ばさないかと聞いたことがあったが、悲しい顔で首を横に振られた。
それなりの理由があるんだな、と感じたのでそれ以来質問はしていない。
「ほら、置いてくぞ」
「あ、え?」
いまだに混乱している真紀を置いてさっさと家を離れる。
鍵を閉める音がして、すぐに横から声が聞こえる。
どうやら質問をしてきているようだが、すこしの間無視。
諦めて黙ったところでこっちから話しかける。
「高校、楽しいといいな」
「うんっ」
本当に楽しみ、という顔で真紀はうなずいてくれた。
まあ、実際にその通りになるのだろう。
笑顔で、二人とも歩き出した。