結局、真紀の体調は時間ぎりぎりまで戻らなかった。

何とか落ち着いた真紀と一緒に教室に入り、ちょうど良く空いていた並びの席に座る。

言葉をかけて落ち着かせていると、時間どうりに気の弱そうな教師が入ってくる。

後ろにいる俺たち二人に何とか聞こえるような声で体育館へ誘導を開始する。

前のほうにいる二人が何かいやな笑いかたをしたのが気になった。





並び方は自由、ということなので真紀の体調を考え後ろのほうに陣取る。

校長の話より、真紀の体調のほうが気になったから。

教師全員の話が終わるころには真紀の顔が明るくなった。

また気の弱そうな教師の誘導が始まる。

友好を深めるためといって用意された時間を使い、大事を取ってゆっくりと教室に帰らせて貰うことにした。

時間いっぱい使おうと思ったのだが、

「さすがに過保護すぎだよ」

という真紀に勝てず予定より早めに戻ることにした。

真紀はずっと喜んだ顔をしていたが、俺には理由がわからなかった。






教室に戻り新しい友達でも探すか、と思い教室に入ると、

「で、誰も止めないわけ?ならいいけど」

「先公も呼びに行かない?じゃあ仲間連れてくるわ」

教室の真ん中で、さっきの教師があのいやな笑い方の片方の足元でうずくまっていた。

もう一人は隣の教室へ行くために出て行くところだ。

異質な光景に、少しの間俺も真紀も固まってしまった。

その間にも、教師はなされるがままに、いたぶられ続ける。

動いたのは、俺よりも真紀の方が早かった。

「何してるの!」

突然の大声に暴行の手が止まる。

俺が制するまで無く、真紀は暴漢に近づいていく。

「邪魔すんじゃねえよ!」

「やめなさいって言ってるでしょ!」

小さい頃からの長い付き合いだが、真紀の罵声を聞いたのは初めてだった。

その驚きで、また動くのをためらってしまった。

瞬きした後には、真紀が倒れているだけだったのに。

腹を殴られて前かがみになった真紀に、さらに蹴りが入る。

もう、我慢できなかった。暴漢が倒れた真紀を踏みつける前に、間に割って入る。

何人か突き飛ばしたが、そんなことは関係ない。

暴漢に口を開かせる間を与えず、顔に一撃。

そして、真紀がやられたのと同じように、腹、そしてもう一度顔に一発。

殴った物は、派手に飛んでいった。周りからは悲鳴が上がる。

もう、真紀のことは頭から消えていた。

ただ、目の前の物が音を立てて壊れるのを見たかった。

転がっている頭を蹴り飛ばそうとしたとき、不意に意識が遠のく。

衝撃の方向に振り向き、立ち上がろうとするが足が上がらない。

後頭部の痛みと引き換えの感覚は、後ろの物から来ていたことを知る。

その物は椅子を持ち、俺の頭を狙おうとしている。

制圧するのは簡単に見えた。実際、大振りな攻撃は懐に入ればいい。

が、実行は出来なかった。遠のく意識では一歩も動けない。

凶器が致命傷を与えようとしたとき、その一瞬後に俺の体はそこに無かった。

その方向に意識を送る。敵意は感じられない。

そこで、意識は途絶えた。