練習に行くと言って考は出て行ってしまった。
ここの近くに練習出来る環境はないはずだし、考が知っているとも思えない。
だけど、練習に誘われたら行くしかない。
あの言い方だから行かないといけないよな。
「俺、ちょっと見てくる」
「いってらしゃい、翔くん」
さて、どこに行ったのやら。
訳のわからない展開に疲れを感じながらドアを開けた。
ついでに、廊下の反対側には考が居た。
見つけたのがドアは閉めた後だったから二人からは見えてないけど。
「え」
考、と続けようとしたら、口をふさがれた。
声を出そうとしたら一応出せたが、考が必死に首を振るのでやめておいた。
とりあえず玄関の方を指さして外へ出るように促す。
どうやら意志は伝わったようで、俺の口を解放して玄関へ歩いていく。
「で、なんで外に出てなかったんだ?」
真希の家の近くで練習出来るはずもなく、俺たちは庭で話すことになった。
家の広さの割に小さいが野菜とかを作るには十分みたいで、結構な種類の植物がある。
いくつか食べられるものはあるのだが、今の時期に食ってもあまり上手くないものばかりだ。
今日はやたらと緑に囲まれる日だな。
「部屋出てからここらのことあまり知らないのに気づいた」
「まあ、そうだろうなとは」
「翔。お前には頑張ってもらわないといけない」
期待した目でこっちを見てくる。
まるで、俺がそうすることが当然のように。
「あの約束、か」
「そうだ。由美にはほとんどの秘密を知られている。
あいつが知らない俺の秘密は一つしかない」
「じゃあもういいんじゃないのか?」
「そうもいかない。これだけは絶対に知られたくない。」
「・・・ホントに弱いんだな」
たまに、なんで考が悪評流されてるのか理解に苦しむ。
この性格と絶対に釣り合ってないだろ。
細木が絡んでるときは異常に弱いんだよな。
「細木とは確か中学からだっけ。何でそこまで知られてるんだ?」
「親父が喋った。由美は親父に気に入られててな」
「細木のことは知ってるのか?」
「いいや。あいつ、あまり自分のこと喋らないし」
「対抗できるものはない、と」
そういうこと、と吐き捨てて考は後ろに体重を預ける。
「あー。なんであいつに敵わないかね。・・・いや、なんでか、は知ってるか」
真剣な目は消えて、代わりにあきらめの色が浮かぶ。
「どうした?」
「いや、少し思い出しただけだ。さて、そろそろ戻るか」
軽く勢いをつけ、そのまま立ち上がる。
行くぞ、と俺を促した目は、いつもの考のものだった。