「おはよ、翔くん」
翌日、真希はいつも通りに俺を迎えに来た。
正直、今日学校に行けるかどうか心配だったが、大丈夫なようだ。
ま、昨日あれだけ元気だったんだからな。
「おはよ。今日は時間に余裕あるな」
「そうだね。ゆっくり行こうか?」
「いや、いつも通りに行く。ぎりぎりだと考がうるさい」
今日からは早めに来いと考に言われてる。
作戦会議、らしいがバスケは二人でするもんじゃないだろ。
考の秘密がどうなろうと俺には関係ないけど、何となく負けるのはいやだからな。
「そっか、孝さん、体育祭頑張らないとだもんね。」
「あいつ一人で頑張ってもな・・・」
俺には一人だけ空回りしてる考の姿が目に浮かぶ。
「そうかな。きっと、みんなが居るから大丈夫だよ。」
みんな、か。ホントに大丈夫なんだろうか。
首をかしげた俺の前で、真希が笑顔を作る。
「もしダメでも、孝さんには翔くんが居るよ」
なんだか、照れくさかった。
教室に入ると、十人くらいが教室の真ん中に固まっていた。
何かを熱心に話していて、その中には考がいた。
考は二人から説明を受けていて、その顔は真剣だ。
話し合いの邪魔はしたくないので、声はかけないことにする。
「あんまり早く来る意味無かったな」
だけど、上手くやれてるみたいで良かった。
「そんなこと無いんじゃないかな?あ、松屋さん達」
松屋と鈴木は、あまり話したところを見たことがない。
だけど、この二人はいつも一緒の気がする。
「おはようございます、翔さん、真希さん」
「おはよ、二人とも。練習進んでる?」
「ええ。私の方は、他の方の足手まといにならない程度には」
「僕は初めから戦力外なので・・・」
昨日とは口調が違う。やっぱりあの場所だったからか?
「そんなこと無いと思いますよ、拓さん。あら、孝さんが他の方と」
「なんか、和解したみたいなんだよ」
そういや知らないんだったな。
「それは良いことですね。ふふ、なんだかいい顔をしてらっしゃいます」
その言葉につられて、考の顔をもう一度見てみる。
松屋の言ったとおり、考の顔には細木と会話してるときに近いものが浮かんでいた。
きっと、上辺じゃない何かを見つけたんだろう。
「ホントだ。あれ、由美さんがいないよ?」
確かに。二人が一緒じゃ無いのはまた珍しい。
いつもならあの中にいそうなものなんだけど。
「由美さんならあそこかと」
鈴木が示した方向は、俺たちから見て考と正反対のところだった。
一人でつまらなさそうにしていたが、少しするとこっちに気づいたようだ。
俺たちのところに来た細木は、なんだか浮かない顔をしていた。
「由美さん、なにかおありになったんですか?」
「ちょっとね。考があんなだと、なんだか時間持て余しちゃって」
考はまだ話に夢中なようで、こっちに気づく気配がない。
「ん、あの子・・・」
今まで気づかなかったが、集団の中には考に啖呵を切っていた子がいた。
他は全員男子なので、少し違和感はある。
「翔くん、どうしたの?」
「ああ、考に告白みたいなこと言ってた子がいてさ」
言い終わった直後、チャイムが鳴った。
話し合いも一段落したようで、考がやっとこっちを向いた。
「あれ、お前等来てたのか」
「ずっと前からな」
「ああ、じゃあ紹介しとかないとな。こいつ等がバスケのメンバーな」
紹介されたので、一応名前は覚えておく。
どうせ、体育祭の間だけの付き合いだ。
お互いの自己紹介が終わった後、ちょうど担任が入って来た。
さて、これから放課後は忙しくなるな。