考がクラスにとけ込み始めてから半月ほどたって、体育祭まで後一週間になった。
俺と真希、鈴木と松屋も影響を受けて、クラスでの会話も多くなった。
ただ、考と細木の関係だけが少し変わっていた。
考と俺はバスケの関係で何人かと一緒に居ることが多くなった。
それだけなら良いのだが、そこへもう一人が入り込んできていた。
今の状況の立役者であるあの女の子だ。
別に俺はどうとも思わないが、細木にとってはそうでないみたいで。
あの子が居ると細木が話に入ってこないのだ。
細木の性格から言って、新しい輪にはいることは苦じゃないはずなのに。
そのことを真希に話したら、
「翔くん、全然わかって無いよ」
と言われてしまった。
真希や松屋は相談を受けてるみたいだが、俺にはさっぱりだ。
二人になると今までと変わらないので、喧嘩と言うことはなさそうだが。
そんな中で、俺たち六人は放課後集まることになる。
珍しく、松屋からの提案だった。
「今日の放課後、私の家にいらっしゃいませんか?」
提案があったのは昼だった。
今日は体育館が俺等の学年に対して解放されていないため、昼と放課後に練習、ということはない。
チーム内でも話はまとまっているため、今日は一日オフになった。
「え、麗衣の家に?」
「ええ。せっかくのオフですし。それに、お友達を一度家にお呼びしてみたかったんです」
「松屋の家か。どれだけ大きいんだ?」
考に考えてることを言われた。
「いえ。ほんの少し大きいお庭があるくらいです」
少しってのは過剰に、て置き換わるケースが多い気がするんだが。
ホワイトハウスくらいの大きさをイメージしておく。これならショックは少ない気がする。
「麗衣さん、本当にいいの?いきなり行って迷惑じゃあ」
「いいんですよ。それに今日は家に誰もいません」
広い屋敷に一人ってのも結構怖いな。
「なら行かせてもらうか。どうせ休みだしな」
「皆さんもよろしいですか?」
頷いて返事の代わりにする。
「せっかくのお誘いですからね。行きますよ」
鈴木が了解して、話はまとまった。
松屋に案内された先は、言葉通りの大きさだった。
真希の家よりも少し大きいくらいで、お屋敷とはお世辞にも言えない。
あまりにも普通だったので、俺たちは黙ってしまった。
「普通の家でしょう?さ、どうぞ」
促されるまま家に入る。
入った後でも、俺たちは口が開かなくなる。
外はどこにでもあるような感じの家なのに、内装はそうじゃない。
どこで売ってるのかわからない、高そうな家具で構成されている。
家具すべてが美術品みたいだ。
そんな中を松屋はスリッパも履かずに歩いていく。
「どうしました?あ、内装にはお構いなく。すべて消耗品ですので」
それは、少し汚れたりしたら買い換える、ということなのだろうか。
そうは言われてもやはり気は引けるため、出来るだけ慎重に歩く。
松屋の部屋に着く頃には、結構疲れていた。
「どうぞ。ここは本当に普通ですので」
言われて入ると、中は言葉通りだった。
おいてある家具も、見た目俺が持ってるものと変わらない。
ただ、六人入っても余裕のあるスペースがあるくらいだ。
それぞれ思い思いの場所に座る。
俺と真希は窓側で、後はテーブルを囲むようにして座る。
家の中では異質なのに、俺たちには普通の空間に少し落ち着く。
「今飲み物お出ししますね。真希さん、お手伝いよろしいですか?」
「うん」
真希と松屋が一時出て行く。
出て行ったところで、細木が喋りかけてきた。
「ねえ翔。バスケの調子どうなの?」
「まあまあじゃないかな。とりあえず同じ学年には負けないつもり。」
「そっか。賭、私と考どっちが勝ちそう?」
「それはやってみないと。・・・考には聞いてないのか?」
「考、教えてくれないのよ。秘密だー、って」
「きっと考は恥ずかしがってるんだよ。一番自信あるの考だし。なあ考?」
「・・・うるせえ」
少しつまらなさそうにしている。
「そっか、じゃあ私が勝ちそうだなー。これで考の秘密何個目かな?」
指を折って数え始める。
五本ほど行ったところで考が、
「お前、そんなことして楽しいか?」
「え、楽しいに決まってるじゃない」
「そうか。なら何も言わねえよ」
それきり、考と細木は何も喋らなくなった。
だけど、二人が帰って来るといつもの二人に戻った。
違うのは、お互いにからかわなくなったことだけ。
成り行きを知ってる俺には、少し空気が辛かった。