体育祭当日。
俺たちは二回戦を勝って、少し休憩を入れられることになった。
俺たち以外も順調に勝っているらしく、休憩中はその話で持ちきりだった。
考と細木は一度もお互いの話に乗ることは無く、片方が話しているときは黙っていた。
真希が何とか共通した話題を振っているのだが、それにも乗ってくれない。
話が盛り上がらないまま時間が過ぎて、細木の出番になった。
真希達は応援に行ったが、俺と考はそのまま残っていた。
出番にはまだ時間があったので、俺は新しい飲み物を買いにその場を離れた。
自販機があるホールは流石に人が多い。
他の場所は人もまばらなのに、ここだけは人が集まる。
目的はみんな同じなようで、自販機の前には何列かできていた。
少し待てば並ばずに買えるだろうと踏んで、ちょうどあいていた椅子に座る。
少しだけ残っているドリンクを飲み干し、そばにあったゴミ箱へ捨てる。
「ええと、倉木さん?」
壁にもたれかかって少し目をつむっていると、いきなり声をかけられた。
なんて言う名前だったかは忘れたが、考を説得した子だというのは覚えてる。
そういえば、自己紹介したっけ?
まあいいや。
「ん。どうしたの?」
相手の名前を使わずに話すのは簡単だ。
だから、知らなくても一対一なら楽に会話が成り立つ。
「孝さんのこと、少し聞かせて欲しくて」
「本人から聞いてみたら?」
「私じゃ、二人でお話しできなくて」
「まあ、いいけど」
なんだか面倒を抱えた気がする。
考のところに連れて行った方が早い気もするが、細木のことを考えるとやめた方が無難だろう。
「それじゃあ。孝さんって倉木さんと居るときもあんな感じですか?」
「あんなって?」
「とげがないって言うか、その」
多分、始めてあった時みたいかそうでないかってことかな。
「言ってることに近い感じだね」
少し、微笑んだ気がした。
「じゃあ、細木さんと孝さんはどうやって仲良くなったんですか?」
「詳しくは知らない。ただ席が隣だったってくらいしか」
「そうですか・・・。ありがとうございました。あ、これどうぞ」
俺に新しいドリンクを差し出す。
それは俺がちょうど買いたかったもので、まだ冷たかった。
「いいの?」
「はい。お話を聞かせてくれたお礼です」
「俺なにも話してないけど?」
「私が聞きたかったことは言ってくれました。だから、いいんです」
「そうか。じゃ、頑張ってな」
飲み物が手に入ったので考のところに戻ることにする。
「あのっ」
角を曲がろうとしたところでまた呼び止められる。
「孝さん、どこにいるか知ってますか?」
こう聞かれると辛い。多分、この子は俺が知ってるとわかっててこう言ってる。
知らないと言ったらついてくるだろうし、それを利用してどこかに誘導するのも面倒だ。
かといって知ってると言って嘘を教えるのもなんだか気が引ける。
と、俺の考えるその少しの間に考がホールに来てしまった。
楽しそうな足取りから見るに、どうやら俺たちの出番なんだろう。
出番を告げる場内アナウンスが流れて、この子の注意が俺からそれる。
その流れた先に、考が居た。
「あ、孝さん」
考もこっちに気づいて、俺を手招きしている。
「おう。ちゃんと勝ってるのか?」
「もちろんです。孝さんと約束しましたもん」
約束ってなんだ?考の奴、細木との他にも約束してたのか。
「よし。で、後何回だ?」
「あと一回です。約束、覚えてますよね?」
「覚えてるって。よし、翔行くぞ」
「わかった。次何年だっけ?」
「んー、確か二年だな。でもそんなに、って話だ」
俺と考は会場に向かう。
「あ、私試合近いんで応援いけないですけど、頑張ってください」
その声を背に受けながら、俺たちは声援に親指を立てて答えた。