考の話通り試合は楽勝で終わった。

次の試合も危なげなく勝ち、ついに俺たちは決勝まで残ることになった。

他の競技は負けてしまったらしく、クラス全体がバスケの応援に来ることになった。

決勝の前に休憩で、バスケ組が集まる。

打ち合わせといってもただの確認で、やることは最初から決まっている。

なので、一分くらいで話は終わった。

終わった後、少し横になるかとか言ってる考を止める。

みんなのところに戻る前に俺は確認しなきゃいけないことがあって、考を呼び出した。

「なあ、細木のことなんだけど」

「ああ、由美のことか。どうした?」

「決勝、負けたらどうするんだ?」

「あー・・・。ってかテンション下げさせないでくれ。試合に響く」

考はそう言ってどこかに行ってしまった。







クラスが固まっているところから少し離れた場所で、真希達を見つけた。

「翔さん、お疲れ様です。あら、孝さんはどちらに?」

「ああ、トイレだってさ。あいつ緊張してるんじゃないか」

「それはないんじゃないかな?ねえ由美さん?」

「ええ、そうね」

やっぱり反応が冷たい。

「・・・翔くん、意気込みは?」

真希、今のタイミングでその質問はナイスだ。

「ああ、やるからには勝つさ。これが終わったら気分良く休みたいしな」

「頼もしいわね。そう言えば相手三年生でしょ?」

「審判の目が厳しくなると思いますけど、頑張ってくださいね」

まあ、好意的では無いだろうな。

どう見ても俺等は悪役位置だし。審判的にも勝って欲しくはないだろう。

「孝さん、遅いですね。もう始まりますよ」

鈴木の言葉で俺は時間に気づいた。

「ああ、きっともうコートに居るんだろ。じゃ、行ってくる」

「翔くん、ずっと応援してるからね」

「ん。任せとけ」









前半が終わり、俺たちは真希達のところへ戻っていった。

「ったく、あの審判なんだよ!全然反則取りやがらねえ」

「ホントだよ!倉木なんて何回転ばされてるんだか」

チームメイトが審判の悪口を言い始める。

クラスからもヤジが飛んでいて、先生に注意されている。

「翔くん大丈夫?かなりこけてたけど」

言われてるとおり、一番ねらわれてるのは俺だ。

相手がささやいていったのだが、俺が穴だと見抜かれてるらしい。

おかげで体当たりはもちろん、ゼッケンまで引っ張られて転ばされてる始末だ。

そのせいで俺のポジションが安定しなくてそこから点が入っていく。

ただ、オフェンスで俺が突っ込むと二人以上が向かってくるので、こっちもそこから点が入る。

そのおかげか、点差は開いてなくて点だけ見れば名勝負になっている。

だから、

「大丈夫。俺が倒れたら負けるのは目に見えてる」

こうするしかない。

「そういうこと。翔はよくやってるぜ?なあみんな?」

考がその場全員に問いかける。

一番動いてるのは考で、この中でも一番辛いはずなのに。

すると、クラス全体から俺をねぎらう声が聞こえる。

どうやら、俺も考に続いてクラスから認められたらしい。

不思議と気分は悪くなく、なんだか誇らしかった。

すこし自分を笑ってみる。

そうしないと、自分のペースが崩れそうで。

「なあ倉木、少し休めよ。俺がその間頑張ってやるから」

「大丈夫。俺に矛先が向いてる時がチャンスなんだから、休むわけにはいかない」

「翔くん・・・」

「まあ、あと十分かそこらだ。翔には我慢してもらおう」

試合再開の笛が聞こえる。

正直体は痛いし、キレそうだが、やれるだけやるしかない。

倒れたら代わってもらうだけだ。

「じゃ、行ってくるぜ」

「考?」

「何だよ由美」

「翔より先にあんたが倒れたら許さないからね」

「・・・誰も倒れさせねえよ」

その言葉には、なんだか棘が見えていた。