後半が始まった。
前半と同じようにして俺が突っ込み、わざと倒されてパスを回す。
だけど、守りは違った。
俺が倒されるのが目に見えているので、それに併せて他のメンバーが動く。
守り方を変えたおかげでこっちが点を取られることは少なくなった。
三分ほどたったところで、相手の態度が変わった。
俺だけじゃなくて、考にまで被害が及び始める。
前半の疲れがある考にとって、倒されるのはダメージが大きい。
倒される度にあの子の悲鳴が聞こえるが、細木の声は聞こえない。
審判が反則を取らないので、考が立ち上がる頃には点が入っている。
初めにあったアドバンテージがそのまま相手に移る。
俺を含む、メンバーの理性が段々と無くなる。
しかも、相手のやり口が汚くなり、何かと喋り書けてくるようになった。
対峙したときや倒されたときに一言悪態をついてくる。
初めは何ともなかったが、段々とその矛先が真希に向いてきた。
しかもこいつら入学式の時の奴らの知り合いらしく、
「お、あの子が真希ちゃんか」
「俺等の後輩にたてついて殴られたって子、あの子か〜」
「かわいそうにねえ。君の彼女。こんなに彼がひ弱で」
「俺等の活躍見て惚れ直すんじゃねえ?」
「で、俺らのおもちゃってか?いいねぇ」
なんだか、殴りたくなってきた。
「翔、落ち着け。あいつらは後で俺が何とかしてやるから」
「・・・許せねえ」
「俺もだ。あいつ等、由美のことまでけなしやがってる・・・見てろよ」
「・・・」
もう、何も聞こえなくなっていた。
その後、考が変わった。
相手に倒されなくなって、どんどん一人で点を重ねていく。
残り時間わずかのところで、後二本で逆転、というところまできた。
俺達が守りにつく。
いつものように俺が飛び出して、相手のボールを奪いに行く。
これまでは、倒されるとき必ず体当たりだった。
だから、俺はあたり負けないように体制を低くして突っ込んだ。
目の前のボールに手を伸ばす。
動きは鈍く、盗れると確信していた。
が、目の前のボールは膝に変わっていた。
思いっきり低い体制で突っ込んだ俺は、避けられるわけもなく顔に膝を喰らう。
俺は倒れ、真希の悲鳴が聞こえる。
目の前が段々と白くなって、意識を保てなくなる。
「お、真希ちゃんが俺にラブコールしてる。後で求愛してくっかな」
「OK貰えたら俺等にも回せよー?」
「よせよ、あんなのいらねえって」
---ふざけるな。
---誰がお前等に真希をやるか。
すでにあいつ等はゴール前にいた。
点差があることの余裕なのか、パス回しで遊んでいる。
俺には背を向けた状態で、俺が起き上がったことにすら気づかない。
本当ならそのまま押し倒して顔面を床に叩きつけるところだが、今はまずい。
だから、バスケのルールに従ってやることにする。
俺に気づいた奴が声を上げるが、もう遅い。
走り込んで行き、上に低めに出したパスのその頂点でたたき落とす。
その勢いで場外付近まで移動してしまうが、それは計算済み。
ボールは俺の少し後ろで先のパスと同じ高さのバウンドをしているはず。
そう踏んですぐに反転。すぐに飛んで、先に飛んでいた奴よりも先にボールを取る。
完全にフリーになったかと思ったが、二人が道を阻む。
ほんの少しだけ立ち止まると、その二人の動きも止まり、隙間が出来る。
ボールにはその隙間を先に行ってもらい、俺は少し回り道をして追いつく。
今度こそ完全にフリーになって、楽にシュートを決める。
後一つ。
三年連中もどうやら負けたくないらしく、ゴール後すぐにロングパスで時間を稼ぐ。
俺は相手コートの真ん中に居たため、すぐには追いつけない。
それでも何とか走る。
ここで審判のカウントが始まる。
反則を取られないのを知っているため、奴らは突っ込んでいく。
それでも、二人がかりで少しだけ時間を取ることに成功していた。
が、所詮それだけ。すぐに奴らは包囲網をくぐり抜けていた。
しかし、追いつくにはその時間で十分。
シュートを打とうとしてボールを上に上げた瞬間、俺が後ろに弾く。
ゴール下に全員が集まっていたため、誰も拾えないはずだった。
だが、考が追いついた。
ここで、初めて細木が声を上げた。
「考!間に合わなかったら承知しないよ!」
声援に応えるかのように考のスピードが上がる。
三年生が全力で追うが、スタートで負けた以上誰も考に追いつくことはできない。
励行にも審判のカウントは進む。
「4、3,2,・・・」
あれ、俺、なんでゴール下に居るんだ?
笛が鳴ったとき、俺は直前の記憶がなかった。