結局、考は間に合わなかった。
最後にボールを投げたが、ダメ元は結局ダメ元だったらしい。
負けたことは負けたが、クラスと他の一年からは絶賛された。
俺はしつこくバスケ部に誘われたが、パスカットだのブロックだのは覚えがない。
その前に体が痛いのが勝って、ろくに応対できなかった。
考の疲れももひどく、俺たちは少しの間別室で待機していることになった。
「翔くん大丈夫?もうあんな無茶したらダメだよ?」
真希が泣きそうになりながら傷の消毒をしてくれる。
打ち身だけかと思ったが、意外にも擦り傷が多い。
一カ所二箇所ならいいが、十くらいあったら流石にまずい。
自分では痛くて動けないため、真希に全部やってもらうことになった。
「ホント、翔さんすごいですね。よくこんなになりながら・・・」
「でも、あの方達本当にひどいですね。私たちのところまで聞こえていましたよ」
ああ、聞こえてたのか。応援とヤジで聞こえてないと思ったんだが。
「悪口なんかより翔くんにしたことのほうがひどいよぉ・・・」
ああ、泣いちゃったよ。
「真希、あんまり泣くなって」
俺が悪いみたいじゃないか。
「そうだぞ、丹羽。ちゃんと俺に考えがあるから」
ああ、そんなこと言ってたな。
「だから、翔の看病ちゃんとしてやれ」
「うん・・・」
大体の消毒が終わって、次に湿布を貼ってもらう。
泣きながらでも出来るあたり、良くできた幼馴染みだと思う。
「あら、孝さん約束は良いんですか?負けちゃいましたけど」
「う、それは・・・」
「僕も、男として情けないと思いますけど」
ああ、鈴木にまで言われてるよ。もうダメだな、考。
「いや、今体痛くて動けそうに」
「考?仲直りに良い機会じゃないか」
「・・・わかったよ。由美、行くぞ。ここじゃ恥ずかしいし」
「わかったわ」
考と細木が出て行く。
ドアを開けた考の背中からは、決意が感じられた。
「うまくいくと良いですね、お二方」
「麗衣さん、湿布もう一枚いい?」
「はいはい。だいぶ落ち着いたみたいですね、真希さん」
少し離れた場所にある薬品棚から湿布を取ってきてくれる。
「うん。翔くん思ったより大丈夫そうだから」
「それでも結構痛いけどな。まだ三十分くらいしかたってないから当たり前だけど」
「すこしお休みになったらどうです?まだ時間はありそうですし」
「そうしようよ翔くん。時間になったら起こしてあげるから」
「それもいいな。じゃ、お休み・・・」
体の痛みで眠れないかと思ったが、横になってみると案外眠気が襲ってくる物で。
そのまま、俺は眠りについた。
目覚め、てのは結構唐突らしい。
大きな物音で目が覚めて、時計を見るとまだ十分しか寝てないことがわかる。
物音の正体はドアのようで、その発生源はなんと細木だ。
珍しく息を切らしていて、その隣には困った顔をした考が居る。
「みんな、聞いて欲しいんだけど!」
「馬鹿それ以上言うな!」
細木の目はなんだか輝いていて、欲しい物を手に入れたような子供の顔をしている。
「私たち、付き合うことになったから!これからもよろしく!」
隣で考が肩を落としている。ああ、秘密ってそれか。
真希と松屋はそろって拍手している。
そこで、俺は細木の相談がなんだったかを確信した。
「じゃ、私たち表彰式に出てくるから!ほら考行くよ!」
「お前なあ、俺は疲れてるんだ」
「あんたが出なかったら翔の分誰が表彰されるのよ?」
「そんなの他の奴に」
「ダメ。あんたが頑張ってたの一番私が知ってるんだから」
そこまで言うと、細木は考を引きずって消えてしまった。
きっと、この二人はこの先もずっとこうなのだろう。
なんだか今までと変わらない気もするが、それは二人の気持ちが今までと同じだからだろう。
これまで一緒だったんだから、これからも一緒であり続けるだろう。
二人とも、おめでとう。