教室に戻ると、予想どうりの視線が俺たちに向けられた。
今まで出会ったことのない雰囲気は少しつらい。
「ちょっと、辛いね」
そういう真紀の顔は、言葉以上に辛そうだった。
今まで和やかな中で過ごしてきたからな。
俺はもっと辛い中で・・・え?
なんでこれ以上に辛い環境に居たことがある、って思ったんだ?
今まで真紀と一緒の環境で過ごしたはずなのに。
「どうしたんですか、翔さん」
「え?」
「なにか得体のしれないような物を見たような顔をしているので」
鈴木拓、なかなか侮れない。
ただの内気な奴ってわけでもないんだな。
「先生がいらっしゃったようです」
松屋の声で俺たちは前を向いた。
「では、ホームルームを始めます・・・・」
担任は教卓に着くなり、一言残して黒板に文字を書き始める。
書いたことは、お決まりの委員決めである。
あちこちから押し付けあいの声が聞こえるのは高校でも一緒らしい。
その間、具合が悪そうな真紀の背中をさすってやる。
これは昔からの習慣で、こうしてやるのが真紀には一番効果的らしい。
真紀はこういう環境に弱い。
それなのに俺のことを最優先で考えるのだから、よくできた幼馴染だ。
一通り書き終わったところで、担任の声よりも早く手が挙がる。
松屋だ。
「先生。私、委員長に立候補させていただきます」
人気取りなどの媚びた風もなく、ただそうあることが当り前のように。
その雰囲気に教室が固まる。
しかし、この教室内に松屋を超える器はありそうにない。
故に、当たり前なのだ。
対抗できるとしたら、この状況で表情を全く変えない細木ぐらいだろう。
ただ、この雰囲気を破れるか?
「じゃ、あたしは副委員長で」
いとも、あっさりだった。
「他に立候補いる?」
当然、そんな猛者はいるはずもなく。
重要な席二つが決まるとあとは早い。
俺たちの中では鈴木が書記になったくらいで、他に委員はいない。
その後席順が決まり、初日だからと何も教えない授業が終わった。
「今日の二人、すごかったね」
帰りのホームルームが終わった後、俺たちは早めに帰ることにした。
真紀の体調が良くなかったので、4人には悪いが遠慮させてもらった。
「それより真紀のほうが心配なんだけど」
「大丈夫だよ。わたしは翔君のほうが心配だけど?」
なんか悪い予感がする。
「どうしてだよ」
「なんか打ち解けてない感じがするから・・・」
「いきなりは無理だろ」
ああ、真紀の顔がまた暗くなってるし。
「やっぱり悪かったのかな・・・」
「そんなことないって。むしろ歓迎だ」
「そうなの?」
「もう機嫌直せよ。明日はまた違うって」
「うん。明日楽しみにしてる」
真紀の顔色がさっきより少し悪い。今日そこまで辛かったか。
はあ、どうしろってんだか。
「・・・じゃ、今日は家まで送る」
「・・・ありがと」