昨日あれからしばらくして、真希はいつも通りに戻った。
今日も元気そうだったが、多分気持ちは沈んだままだろう。
授業が終わって練習に行くときも俺のそばに居る時間長かったし。
気にはなったけど、同じクラスでも種目が違えば練習場所も違うわけで。
結局、今日も二人は別れて行動することになった。
昨日と違い、俺が行くのが遅れたため、考は練習出来ていなかった。
なので、自然と会話しかすることがなくなる。
「なあ、翔」
「なんだよ」
「真希ちゃんとさ、どこまでの関係?」
壁際に二人年頃の男が居たら、会話の方向は自然と決まる。
「別に、幼馴染みってとこ」
この手の質問には結構なれてるつもりだ。
中学の時も同じこと結構言われてたしな。
「そうか。俺には家族に見えるんだがな」
「さすがにつきあい長いから」
言い方がまずかったのか、会話が止まる。
こっちから振れそうな話題は、一つ、か。
「そういう考はどうなんだよ?」
「なにが?」
「細木とだよ。俺には夫婦に」
「お前っ、何をっ」
あ、赤くなった。
そうか。こいつこういう話する奴今まで居なかったから。
お、バスケの借りを返す良い機会か?
「で、細木との馴れ初めはなんなんだ?」
「人の関係を勝手に想像するな」
「わかった。じゃあいつどんな風にして仲良くなったんだ?」
「中学の時。どんな風にかは言いたくねえ」
「答えになってない」
「翔・・・?」
この勝ち誇った感触。いいな。
次にどうやってからかってやろうか考えていると、細木がやってきた。
「二人とも?練習は?」
「あ?見ての通り。場所取られちゃ練習出来ねえよ」
「だから話すくらいしかすることないってわけ」
「で、話の内容は?考の顔が赤いけど」
「二人のことについて。俺、まだ二人のことよく知らないし」
考が黙った。
多分恥ずかしいんだな。
「いいわよ。私から話してあげるから」
「おい、練習は良いのか?」
「考は黙る。私だって似たようなもんよ」
そういって、細木は俺に向かい合うようにして座る。
そこから、二人の過去が少し、始まった。
「まあ、私も考から聞いただけだから、ホントのことは考から、ね」
簡単に話をまとめる。
考の悪評は誤解だと言うこと。
細木はそれに感づいて、そういう態度で考に話しかけてた。
でも、周りはそうじゃないから、結果的に細木も同罪扱い。
と、言うことらしい。
考のことは嘘かもしれないが、細木のことに関しては真実だろう。
まあ、人のことはそんなに深く詮索するもんじゃない。
「そういうわけだから。あたしもう行くね。」
言いたいことだけ言って戻る。
で、考はというと、話してる間中ずっとむくれていた。
なんだか話しかけたくなかったので、場所が空いたのを良いことに一人で練習に戻る。
とはいっても、一人での練習だとどうも物足りない。
一応クラスから村八分の状態なので相手も居ないし。
仕方なく、シャドウの形で練習する。
真希達からは評判が良かったバスケだけど、いざやるとつらい。
そんなに体は動かないし、対人になるともうダメだ。
ホント、考はよくやるな、と思う。
それにしてもさっきの話。
考と少ししか付き合ってないが、誤解だというのは本当だろうと確信できる。
じゃあ、まともに話をすればクラスの誤解も解けるんじゃないか。
でも、いきなり多人数とじゃ分が悪いしな・・・。
かといって少人数と話す機会も作りづらいし。
考えが行き詰まったところで、シュートが外れた。
リングにすら届かなかったボールは、壁に当たって戻ってくる。
なんだか区切りを言い渡されたようで、集中も切れてしまった。
そうなるとつまらなくなったので考のところに行くしかなくなる。
今日の練習はやめにして、真希の様子でも見に行ってやろう。
そう提案するつもりで駆け足で戻る。
だけど姿は見あたらなくて、かわりに人山があった。
そこには、クラスのメンバーに取り囲まれてる考が居た。