考とその集団からは、重い空気が感じられた。
考は壁を背にしていて、前側を囲まれている。
少し場面が違えばリンチされているところだろう。
集団の中には女子も少しだけいる。
空気におびえているのか、少し後ろの方に構えている。
一人だけ前に構えているが、そいつがリーダーだろう。
暴力沙汰はまずいと思い助けに近づく。
だけど、踏みとどまった。
ある意味では良い機会じゃないか。
話す場を向こうから持ってきてくれたんだ。
考の応対次第では事態が良い方向に向かうかもしれない。
そう考えて、少し離れた場所から見守ることにした。
「なんで一緒に練習に参加しないんだ?」
どうやら話は始まったばかりのようだ。
「お前ら、俺たちが入れてくれって言ったら入れてくれるのか?」
考は相変わらず座ったままで答える。
「当たり前だ。ただでさえ練習できるぎりぎりの人数なんだ」
「そうか?じゃあ後ろの奴等にも聞いてみろよ」
「聞くまでもないだろう。みんな考えが同じだから話し合いに来てるんだ」
「一対大勢で話し合いってか。それ、脅迫じゃねえ?」
リーダーが言葉に詰まる。
考の言葉に反論できるだけの正義を持ってないんだろう。
沈黙を嫌うように考が続ける。
「第一よ、なんで取り巻きは何も言ってこないわけ?」
「・・・」
「な。結局あんたの空回りってことだよ。今度は”一人”で来な」
言って、考は天井を向いた。
沈黙が流れる。
多分、今回は考の方が正しい。
それよりも、意見が食い違ってる状態で来る方が間違いだ。
リーダーは考に対してプラスなんだろう。
でも、周りはどうだったか。
「あの」
細く、声が聞こえた。
「ん?言ってみな」
少し乱暴だが、考なりに優しく促したんだろう。それにしても余裕あるな。
でも、あまり意図はくみ取ってもらえなかったようで、女の子はおびえてしまった。
「あ、あの。どうして、優しく、ならないんですか」
「優しく?」
「はい。え、えと」
「考でいいぞ。」
「・・・孝さん、は、きっとちゃんとした人です。」
段々と警戒心がなくなって居るのか、言葉がはっきりしてきた。
「さっきも、ちゃんとお話してくれました。暴力、しませんでした」
最初の頃よりも目がはっきりしてきた。
多分、この子は嘘をつく気じゃない。
「だから、いい人です。お友達になりたいです。きっとみんなも同じです」
----なぜだか知らないけど、逃げ出したくなった。
女の子が手を差し出す。
考は、照れくさそうに、はにかみながらその手を取る。
----もう、いいや。
女の子が微笑んだのを見て、俺は背を向けた。
さて、真希が待ってる。