---声が、三つ聞こえる。

---逃げていく獲物は全て潰した。

---残りはただ威嚇にもならない叫びを上げながら泣く。

---”とりあえず”近くにいた一番近い奴を”潰す”ことにする。

---僕は力があまりないから、潰すには道具が要る。

---でも、此奴等にはそんな物要らない。

---ほら、叩いたら転ぶんだもん。後は踏むだけ。

---それに、今まで使ってた物はもう汚くなっちゃったから。

---はは、なんだって?転んだまま何言ってるのさ。

「お、大声出してるから人来るぞ?こ、この人殺し!」

---ああ、わかってないんだね。あいつがここを選んだ理由。

---ここは絶対そんなこと出来ない。

---だって、君が言ってる理由でここを選んだんだもん。

---僕が何やっても大丈夫なようにって。僕が大声出しても大丈夫なようにって。

---あいつ、どこまで僕のこと嫌いなんだろうね?

---もう、君はいいよ。

---僕はそっと足を此奴の胸に置いてあげる。いきなりじゃかわいそう。

---やっぱり、思いやりは大切だよね。学校でもそう習ったらしいし。

---このまま考え続けてもよかったけど、本来の目的を忘れる前に踏み抜く。

---少し加減してるから死なないとは思うけど。

---僕の足形が二つ、きれいなのとかすれてるのが残ったことを確認して、次。

---さてと、これで声は二つになったね。

---流れてくる血が目に入りそうになるのを眉毛のあたりで止めながら、ゆっくりと歩く。

---ああ、今日の晩ご飯なんだろう。

---お母さん、今日は早く帰れるって聞いたから。

---きっとおいしい物食べに行けるんだろうな。

---でも、僕おなか痛いからあんまり食べられないかも。

---結構おなか殴られたからなぁ。

---あ、なんだか少しむかついてきた。

---あいつ殴ったら治るかな?

---次はどうしようかな。近くに道具あるし、おもしろいことしよう。

---僕、どんな風にあれ使われたっけ。






月があった。暗闇を許さない光があった。

だけど、それは絶対じゃなくて。

太陽と比べるとあまりにもひ弱で、頼りなくて。

望まれた太陽は、まだ昇らない。

闇は、まだ、晴れない。