真希の家に泊まるというのはそう珍しくなかった。
子供の頃からそういう間柄だった。
今は、俺が床で寝て真希がベッド。
もっとも、ホントに小さい頃は一つの大人用布団で二人寝てたんだけど。
起きたらいつも真希が俺の胸の中にいたんだったっけ?
流石に今みたいに大きくなって、お互いを意識し始めてからは床とベッドになった。
「ねえ、翔くん」
「どうした?」
真希が不安がってたから手は繋いだまま。
俺たちの手はちょうど間の高さで繋がれている。
別に俺たちが付き合ってるからとかじゃなくて、幼馴染みとしてずっと続けてきたこと。
「人の悲しい話を聞いて泣くのってどう思う?」
「別にどうとも」
「答えになってないよ」
手を握る力が強くなる。
「少し、考えて良いか?」
「うん。待ってる」
多分、今日のことなんだろう。
細木は今日のことは聞くな、と言った。
じゃあ、何も知らない俺が真希に掛けてやれる言葉って何だろう。
何を言っても白々しくなりそうだ。
答えられないまま、時間が過ぎた。
強くなった力はずっとそのままで。
音のない時間、ずっと考えていた。
この問いに別に深い意味はないのかもしれない。
そうなら、ただ決まり切ったことを言って終わる他愛もないこと。
実際、これが最初に浮かんだこと。
だけど、手の中の力はどんな意味だ?
----俺に向けられた問いは俺の言葉で返してやるのが礼儀じゃないのか?
----さあ、いつもの俺。
----一人で居るとき、俺は何を考えて何を感じた?
----全てのことに何を感じていた?
----人に合わせる必要のない俺はこれにどう答える?
「相手によるな」
「え?」
「真希が泣いたとき、相手はどんな言葉を掛けてくれた?」
「・・・感謝はされてないかな。でも、不愉快にさせた訳じゃないと思う」
「なら、その時の真希は正解だ。よくやったな、真希」
繋いだ手が緩んだ。
俺の手の中を、真希の指がくすぐるようにしてすり抜けていく。
「ありがと。もう、大丈夫」
その声は、いつもの真希だった。