鈴木と約束を取り付けるのは簡単だった。

もともと俺たちと鈴木は断交していた訳じゃないから、接触は今までの半分はあった。

そして、俺たちが松屋に頼まれごとをされたことを鈴木は知らない。

だからこうして鈴木と松屋を同じ場所に呼び出すのは簡単だった。

場所はあの公園。

鈴木が、俺と二人きりで会った。

あいつが、今までの雰囲気を捨てた場所。





「それでどうしたんです?僕に話って」

松屋はまだ来ていない。

正確に言えば、松屋には隠れて貰っている。

話が終わったところで真希が携帯を鳴らし、出てきて貰う。

そこからは、俺たちが約束した二人の時間。

「単刀直入に聞く。松屋となんで仲違いみたいな形になった?」

少しだけ迷惑そうな顔をして鈴木は答える。

「それは分かっているんじゃないですか?」

予想できた。だから次に続ける言葉もちゃんとある。

「家のことだってのは知ってる。だから、その家の、お前の事情を話してくれ」

鈴木の表情が変わる。

迷惑そうな顔から、残念だという顔。

しかしその目には、きっと俺たちは映っていないのだろう。

そう思わせるだけの説得力を持った陰が見えていた。

「翔さん達といるときに、あまり家のことは考えたくなかったんですが」

声に、不思議と陰は見えなかった。

表情はそのままで、声だけが心を伝えている。

「僕は、小さい頃から何度も人の死に際を見てきました。大きい家ですから老人も多いですし、
 ちょうど時期も悪かった。こう言うと、助かったみたいに聞こえますけど、実際は」

寿命かはさておき、全て死んだ、ということなのだろう。

「一度や二度なら良かった。ただ、それが片手の指じゃ済まなくなると話は違ってて。
 ・・・それでも僕は鈴木の息子だから」

「顔を出さないわけには、って?」

「そうです。そうすれば分かるでしょう?僕はいつしか悪魔と呼ばれた。
 死神だと。災いの子供だと。見たら死ぬぞと」

声が表情とリンクし始める。

「それからの僕に対する風当たりは強くなる一方。誰一人として会話をしなくなり、
 僕が食堂で食事することもなくなった」

それを引き離すように顔の翳りが加速していく。

「僕が何をしたと?”両親に連れられて行った先々で”人が確実に死ぬ。
 こんな自分に非のないことで何故こんなにも責められる?」

何も口を挟めない。掛ける言葉が出てきてくれない。

----目が変わった。

陰だけを見ていた目に、初めて俺たちが映る。

助けを求めていた。

手を差し伸べて欲しいと叫んでいた。

「教えてくださいよ。ねえ。僕はどうやったら人と呼ばれるようになるんですか?
 どうしたらただの鈴木拓に戻れるんですか?」

きっと、枯れるほど泣いたのだろう。

顔に涙が浮かぶことはない。もう流れる涙もない。

それでも泣き足りないから、涙を流し足りないから叫ぶ。

泣くことが出来ない涙の変わりに声が震える。

声が震えなくなった時、きっと鈴木は壊れてしまうのだろう。

だから助けてやらなくてはならない。

声が震えている内に。

それが出来る人を、俺は一人しか知らない。

俺は振り向いて真希に合図を送ろうと、



「解決できるかは分かりませんが、策なら有りますよ?」



俺の横に、その人はいた。

松屋は俺に一礼すると、

「ですから、後は私にお任せください」

にこやかに、俺を鈴木から遠ざけた。

とん、と優しく胸を押された俺はただ下がるだけだった。

そこに、希望が見えたから。