放課後までを体の回復に当て、何とか痛みも薄らいできた。
動けないと言うほどではないし、朝に比べれば断然ましだ。
ずっと椅子に座っていたい気持ちもあったが、掃除の邪魔になるといけない。
体のことを考えたら、何もせずに帰るべきだろう。
まあ、今日ゆっくりすれば調子戻るかな。
真希は友達に聞きたいことがあるとかで先に出て行っている。
真希に追いつこうと、ゆっくりと立ち上がる。
こうしないとやっぱりまだ痛いのだ。
立ち上がってしまえば後は少しの我慢で良い。
「翔さん、ほんとに学校に来て大丈夫だったんですか?」
鈴木が話しかけてきた。
珍しく松屋とは一緒じゃないらしい。
「ああ、朝は後悔したな。だいぶ辛かったし。授業は寝るだけだったけど」
鈴木はやれやれといった顔をして、
「まったく、無茶すると真希さんが心配しますよ?」
無茶させたのは真希なんだけどな・・・。
「気にするな。そういや松屋は一緒じゃないのか?」
「麗衣さんなら細木さんとクラス会議中です。あの二人ならすぐに終わるでしょうけど」
教壇の方を指さす。
その方向には、五人くらいに指示を出してる二人が居た。
全員が了解の合図をすると、すぐに解散となった。
やっぱり仕事が速いんだな、あの二人は。
自由になった細木が、窓際で暇そうにしている考に近づいていく。
考が何か言うと、細木はそのたびに不機嫌な顔をしている。
相方の松屋はというと、いつの間にか戻ってきた真希と一緒にその光景を眺めている。
松屋が真希に何かをささやくと、真希は顔を少し赤くしてこちらに向かってくる。
「翔くん、かえろ」
「おう」
教室を出たときに、苦笑した考が細木の頭に手を乗せてたのは見なかったことにする。
その後、頬を赤くした考に追いつかれて、六人で帰ることになった。
「麗衣さん、体育祭のことなんですけど」
「なんでしょう?」
玄関を出たところで、真希が質問をぶつける。
「確か成績に結果が影響するとか・・・」
「ええ。全教科に評定プラスされるそうです。」
「ちょっとまて、体育だけじゃ無くて?」
思わず突っ込んでしまう。
「そう聞いてはいますが・・・。明日、先生から発表があるそうです」
あれでなあ、と考えていると、いきなり考に引っ張られた。
「なんだよ考。いきなり・・・」
「あんま前行くな」
見てみろと言われて、素直に従う。
俺たちの少し前には、二十代くらいの長身の男が一人立っていた。
ここではあまり見ないレベルの服に身を包んでいて、雰囲気はこの学校にはとても合わない。
服の値段はわからないが、センスからいって相当な物なのは予想が付く。
別に何かあるわけではなさそうだが、考が何か感じたならそうなのだろう。
一歩引いて出方を見てみると、
「麗衣、迎えに来た」
松屋の知り合い?迎えに来たってことは親か?
いや、こんな若い親は居ないだろう。
「はい。兄さん。では皆さん、今日はこれで」
すたすたと歩いていく。
松屋が男の横を過ぎたとたん、松屋の前に大きい左ハンドルの車が止まった。
俺たちは少し後ずさったが、松屋は当たり前といわんばかりの態度で車に乗り込む。
男はそれを横目で見た後、
「いつも妹が世話になってるね。感謝してるよ」
その後に、でも、もう関わらないでと続きそうな口調で男は喋る。
だが続く言葉はそうじゃなく、
「これからも、兄妹共々よろしく」
そういって俺たちに礼をした。
男の雰囲気はともかく、態度からはとりあえず敵意は感じられない。
それよりも、考の様子が気になる。
男が何か行動をする度に体に力が入っているのがわかる。
礼の瞬間には舌打ちまでしていた。
・・・なんかやばいことがあるな。
俺たちが何も言えずにとまどっていると、
「ああ、考くんだったかな?」
「名前くらい覚えたらどうだ?」
親切な声に対し、こちらはずいぶんと敵意のこもった返し。
「すまないね。あまり顔を見ないものだから」
男はそんなの慣れている、と言わんばかりに冷静に流す。
「帰ったらお父様に伝えておいてくれ。これからも期待していてください、と」
それだけいって車に乗り込む。
男が乗り込むと、車はすぐに動き出して見えなくなった。
考は見えなくなったに車に向かって中指をたて、細木に蹴られる。
去っていく車の中の松屋の笑顔が、なんだかこの場には似合わなかった。