「いや、それだけじゃ今回の説明にはならないだろ」
確かに、松屋の家と鈴木の家はでかい家なのかもしれない。
でも、それだけじゃ二人がこうなっていることは説明できないはず。
とりあえず浮かんだ疑問を全部ぶつけてみることにする。
「それが問題なら、二人は接触しないはずだろ?」
「ああ、翔達は知らないのよね。考、説明して」
「なんで俺が・・・って由美は詳しくは知らないか」
考は自分の飲み物を半分くらい飲み、面倒そうに切り出した。
「別に、松屋家の人間と鈴木家の人間が仲良くすることに問題はない」
「だけど、麗衣さんと拓さんは別?」
「そう、あの二人だけはな。んー、なんて言えばいいのか」
具体的な言葉が見つからないのか、考は頭をかきながら下を向いてしまう。
考が説明にとまどっているのを見て、細木が代わりに話し出した。
「考、あたしにはあだ名がどうのって言ってなかった?」
「そうだ。あの二人にはな、ちょっとした噂があるんだよ。詳しいことは俺からは言えんが」
話し出したと思ったらそれかよ。
「考、もうちょっと詳しく話してくれてもいいんじゃないか?」
「そうだけどよ、過去のことは自分で聞いてくれや」
考はまるで、自分が知ってることが悪いことだというような顔をする。
聞きに行こうとしても、鈴木と連絡付かないだろうしな・・・。
流れる沈黙を嫌って、俺はグラスを弄ぶ。
打開策が見つからないまま過ごしていると、真紀が口を開いた。
「ねぇ由美さん。松屋さんの家に行ってみない?」
「そうね。私たちの話なら聞いてくれるでしょうし」
「だけど、あの家にいる保証は無いだろ」
「行かないよりましよ。さ、遅くなる前に行きましょ」
女二人はさっさと出て行く準備を始めた。
グラスは片付けなくていいよ、と準備を終えた真紀が言う。
「んじゃ、俺らも行くか?二人にだけ任すのは気が引ける」
「そうだな。心当たりがないわけでもないし」
「そういうことは早く言え」
軽く肩を叩かれる。
細木によると、仲の良い奴にだけやる仕草、ということだ。
曰く、俺が二人目らしい。
一人目は一体どんな奴だったんだろうな。
全員が準備を終えて、真紀の家から出る。
「じゃあ8時頃にまたここに集合ね」
今の時間は4時。それだけあれば今日は充分だろう。
「へまするなよ?」
「あたし、考よりはしっかりしてるもの」
また言い合いが始まる。
二人が本気で怒ったら怖いんだろうなぁと思うけど、笑顔でやり合ってるので安心。
何だか長引きそうなので、俺は真紀と話すことにした。
「大丈夫か?松屋、何だか手強そうだけど」
「うん。由美さんが付いてるし」
俺は、お前が足手まといになりそうで心配なんだけどな。
まあ、細木の器量なら真紀くらいは足手まといにはならんか。
「そうか。頑張れよ」
そう言いながら頭をなでてやる。
あんまり気負いすぎると、こいつは潰れてしまうだろうから。
気のゆるんだ笑顔をする。
この顔を見るのは何日ぶりだろうか。
体育祭では迷惑かけたからな。今度二人で遊びに行こうかな。
「ニヤニヤしてるお二人さん、そろそろ行くよー?」
既に言い合いを終え、歩き出していた細木にからかわれた。
考はその反対側へ同じく歩き出していた。
俺はすぐに頭から手を離し、真紀はそれと同時に後ろを向いてしまう。
「じ、じゃあ行ってくる」
「い、いってらっしゃい」
それぞれのパートナーの方へ行く。
俺は考、真紀は細木の方へ。
さて、あそこにいると良いんだけどな。
からかってくる考を適当にいなしながら、俺は歩を進める。