「考!」

追いつかれずに学校まで走りきった後、門のところに考を見つける。

「どうした?そんなに息切らして」 

追われてるということを言いたかったが、俺の肺はどうも機嫌が悪いらしい。

息をするだけで精一杯の俺はただ後ろを指さすだけだった。

「あ、そういうことか」

それだけで納得してくれたようで、考はそのまま俺が指さした方へ歩き出していった。

「ああ、一人か二人は翔のところに来るだろうから。自分で何とかしてくれ」

「・・・おい」

俺の声が聞こえなかったのか、考はめんどくさそうな格好のまま歩いていく。

ポケットに手をつっこみ、まるでたばこでも吸い出しそうな雰囲気まであった。

息も落ち着き呼吸以外に意識がやっと向けられる。

この姿を見て何のねぎらいもないのかよ。

俺がどれだけ走ってきたか位察してくれよ・・・。

ん?確か電話でつけられてるって言ったよな。てことは、まだ他にいるわけだ。

そして考と俺は逆方向を探した。じゃあ、目の前にいるのはやっぱりそういうことなんだろうか。





目の前の男はチェーンを右手でさっきから振りまわしている。

だいたい五十センチくらいだろうか。

そこまで力がないのか、幸いにも持っているチェーンは細身だ。

それでも当たったら痛そうなので、まずはあれを何とかするべきだ。

「へへ。これ当たったら骨折れるぜ?」

「はいそうですかすごいですね」

「あ?本気で言ってんのかコラ」

本気も何も、それが感想だからしょうがない。

さて、どうしようか。

つかんで無力化しようとしてもあの短さじゃあ無理。

かといってあのチェーンは怖いし。

第一俺、喧嘩なんて今までしたこと無いから。

ああ、そう言えば俺いじめられっ子だったっけ。辛かったなぁ。

でもあんまり怖くないんだよな。普通ならびびってもいいはずなのに。

男がチェーンを振り回しながら近づいてくる。

対して俺は何も対策が取れないまま、ただ立ちつくしている。

それを見て勝ち誇った顔をされ、俺は何も出来ないまま、チェーンが届きそうな距離に来た。

そのまま鉄の鞭が振り下ろされる。

何も対策を考えられないまま俺はそれを頭に---


----遅い。

受ける、前に体が一歩踏み出していたが、反射的な行動で、自分では動いている感じはしなかった。

だけど、今、何か変な感覚が頭をよぎった気がする。

自分じゃない何かに動かされたというか。

だけど避けられたことに変わりはない。

てか、考える暇があるなら行動しろってな!

踏み出した勢いのまま、頭突きを見舞ってやる。俺も痛い。

勢いが良かったのかよく効いたみたいで、男は鼻を押さえて痛そうにしている。

都合良くできた隙で横っ面を殴りつけ、よろめいたところで蹴り倒す。

先にチェーンを回収しておいてから馬乗りに。

後は抵抗できなくなるまでずっと殴る。

やってることに罪悪感を覚えるが、こうしないとこっちが危ない。

・・・死なないよね?










結局、4、5発で意識が飛んだみたいだった。

抵抗がないことを確認してから立ち上がる。

いつもやっているその動作が、今は痛みを伴う。

とりわけ、樹に盛大に擦り付けた右腕はひどかった。

長袖だったからまだ良いが、半袖だったらと思うと。

「ああ、まだ痛み取れてなかったんだよなあ」

体育祭、鈴木の捜索、林の中での逃走、そして今伸びてるこの男。

どう考えても、俺の体は寝たがっていた。

合流も考えたが、考の邪魔は出来ないのでここに待機していることにした。

まあ、考なら無傷で帰ってくるだろう。

なんだか、そんな考えが浮かんだ。