「翔、終わったぞー」

予想通り無傷で考が帰ってきた。

・・・右手に男を引きずりながら。

男はともかくとして、無事に帰ってきたことに力が抜けてしまい、地面にへたり込む。

「お疲れ。で、その男は?」

「ああ、何か一番事情を知ってそうだったから連れてきた」

座ったままだと話しづらいので、一応立つ。

あー、体痛い。

そのまま男の前まで行き、質問してみる。

「話聞かせてくれるか?」

男は顔を背けて、その意志がないことを示す。

と、考が背中を蹴り飛ばす。

手をつくこともままならないのか、顔から崩れ落ちた。

考は倒れ込んでいる男の髪をつかんで強引に起き上がらせる。

「おい、喋らないんならそれで良いけど。後がひどいってわかってる?」

考が凄みをきかせた声で脅迫する。

よほど怖いのか、男の顔は歪んでいる。

考に任せると別の意味で喋らなさそうなので、俺が質問する。

「で、なんで俺たちを襲った?」

顔をこっちに向けようとするが、考の方へ顔は固定されている。

どうやら、脅しをかけ続ける算段のようだ。

「え、えと。お前等が、せ、先輩をはめたから」

「嵌めたぁ?何のことだおい」

考、怖いよ・・・。

「どうせ体育祭の時の報復だろ?わかってんだよんなもん」

「わ、わかってるなら」

「うるせえ!」

一喝、いや一発。

考の頭突きは簡単に口を開かせる。

「先輩にあんた等をボコれって言われて」

「今居るメンバーで全部か?」

真希達のことが心配になって聞いてみる。

「はい。そんなに数が集まらなかったから・・・」

「翔、多分こいつ嘘付いてない。安心しな」

考はそう言うと、思い出したようにポケットを探し出す。

ポケットから取り出したのは数枚の学生証。

「こいつ等の身元割れたから。これでこいつ等と俺たちは二度と会うことはない」

「そう、か」

ああ、翔の家はそれなりの力を持ってるんだっけ。

でも、いったいどうやって?

・・・頭を振る。

それは今大事なことじゃない。

今の一番は真希達の安全だ。

その次に休息。考の言ってることはその次。

「じゃあ、真希達を迎えに行こう」

「そうだな。もう暗いし、由美が心配だ」

顔を背けて言う。

照れた仕草に、思わず口元がゆるむ。

俺の前だけでは惚気るんだよな、こいつ。照れるけど。

「じゃ、一度家に戻ってからでいいか?真希が帰ってきてるかもしれない」

「そうするか」

いい加減もう痛いのを我慢するのはいやだ。

疲れた体は、真希に会いたがっていた。

きっと、安らぎの場所だろうから。