「さて。こいつと翔の関係、だったな」

足下で伸びてる男をつま先で蹴りながら考が話し始める。

この場には4人。

鈴木と松屋は自分のことを優先してもらったためここには居ない。

今頃は買い物をしているところだろうか。

「正直俺よりも丹波の方が詳しいとは思うんだけどな?」

真希の袖をつかむ力が強くなる。

でも、俺に助けを求めているわけではなさそうだ。

「なんで真希が詳しいんだ?俺に覚えがないって事は真希も覚えがないんだろ?」

「翔くん・・・それは違うよ。あたしは今でも覚えてるもん」

倒れている男を一瞥し、真希が続ける。

「この人、私のこと好きだったの。小学校の頃の話だけど」

確かに、真希は子供の頃から人気があった。

でも、みんな俺が居るからって理由で諦めてたんじゃなかったのか?

本人の俺としちゃあ、早く離れろって気持ちだったけどな。

「それで?俺が襲われる理由になってない気がするけど」

「それがね・・・」

真希が少しの間言葉に詰まる。

何かに迷うように俯いた後、顔を上げてはっきりと俺に向き合う。

俺の袖から手を放し、口を開こうとしたとき。

「はい、ストップ。それは翔が思い出すべき事であって、無理矢理呼び覚ますべきじゃないよ?」

「由美さん!」

突然の横やりに真希が珍しく声を荒げる。

「気持ちは分かるよ。でもね、それは本当に必要な記憶なの?」

「それは・・・」

窘めるような口調の細木に、声のトーンが下がる。

声を荒げることでないと判断したのか、唇をかんで無理矢理に自分を抑えている。

真希は取り乱すことの方が少ないため、そうでもしないとダメなのだろう。

「真希、いいよもう」

「え?」

びっくりしないようにそっと頭に手を載せてやり、ゆっくりとなで回す。

ガス抜きしてやらないと、唇をかみ切りそうだったから。

「俺のことだから、俺が何とかするべきだって。・・・辛いときは言うから、な?」

「うん・・・」

気を楽にすることには成功したみたいで、真希の頭は俺の手に良いように動き出した。

右に手をやれば右に、後ろに手をやれば後ろに。

それがなんだか嬉しくて、ずっと遊んでいたくなる。

が、今はそう言う時じゃない。

手を適当に動かしながら、俺は話を元に戻すことにした。

「考、なんか俺何日か前にこいつ見た気がする。どこで見たかは分からないけど」

「そうなのか?悪いけど、それはないと思うぜ」

「どうしてだ」

考が憎々しげに男の胴を蹴り飛ばしながら答える。

「こいつら臆病者だからな。そう易々と姿は見せないはずだ」

「それにあたし達がべったりでしょ?なおさらよ」

「そうか・・・」

それでも近日中に此奴を見ている確信はあった。

しかも、夜。

夜は基本的に外出しないはずだが、何故か夜に。

俺は、周りが暗闇に包まれている中でこいつと出会った。

いつだったかは思い出せない。

だが、俺は確かに此奴と何回も会っている。

----今夜、試してみるか。