真希と一緒に家に帰ると、
「疲れたでしょ?ご飯作ってあげる」
まだ夕方で食事には少し早いというのに、台所に消えてしまった。
が、冷蔵庫の中に何もないことを確認すると、
「・・・買い物いこ?」
とりあえず今日と明日の分、ということで軽めの買い物が終わった。
勿論袋は強奪してある。
「ごめんね。翔くん疲れてるのに」
申し訳なさそうな顔で真希がこちらを見てくる。
そこはありがとう、と言うべきだと何度も注意しているのに治る気配はない。
「いいの。第一真希は俺に気を遣いすぎ。もっと気楽にしてくれて良いんだぜ?」
「ううん。翔くんだからだよ」
親しき仲にも、ということだろうか。
保育園からの付き合いだというのに。
普通はこれだけ長く付き合っていればお互いの全部を知ってる、となるはずだ。
だからこの関係はおかしいんだろう。
真希は俺のことを全部知ってるけど、俺は真希のことをよく知らない。
「そういや、今日は何を作ってくれるんだ?」
考えすぎて会話に間が空いてもいけないなと、無難な話題を振ってごまかす。
ただ、その考えは一言で否定された。
「秘密。出来てからのお楽しみね」
「そうか・・・」
悔しいので袋の中を覗いてみるが、全く見当が付かない。
このあたり、俺と真希の腕の差が現れていると言える。
そういや真希が料理作ってくれるようになったのはいつだったか。
中学の時にはもう作ってくれてて。しかも俺の親よりも上手いというおまけ付きで。
そこのところを見込まれてか、真希は中学くらいから俺の世話を両親に頼まれたらしい。
真希が俺の世話をするようになってから、両親の収入はぐんと伸びた。
なんでも、俺のことが心配で全力で仕事できなかったらしい。
子供に話す事じゃ無いだろとは思ったが、そういう両親だからしかたがない。
「どうしたの翔くん。ぼーっとしてるよ?」
っと。どうやら長いこと意識が飛んでたらしい。
別に心配されるようなことは考えてなかったのだが、真希にしては今日の事が気にかかってたのか、
「あ、ごめん・・・。翔くん考えること多いんだよね」
確かに、今日はでかいことが二つもあって疲れた。
だけどそう深刻なことでもないし、一つは喜ばしいことだ。
俺のことも今夜進展させるつもりなので、気は楽だ。
体育祭の方がよっぽど緊張しているくらい。
「そうでもないさ。ゆっくりやって良いことなんだろ?」
「・・・そうだね」
「それより腹減った」
「おなかの方が心配?ふふ、なら大丈夫だね」
話に落ちが付いたところでちょうど我が家。
家に二人、しかも食事を作ってくれる、というところに親近感を感じふと呟く。
「今頃あの二人はどうしてるんだろな」
「きっと新婚さんみたいな会話してるよ」
「状況はまったく同じだけどな」
自爆したことに気づいた真希が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
そして急に袋をひったくり、ドアへ駆けていってしまう。
なんだか卵パックがいやな音を立てていたが、無事だということにしておこう。