「ついたー」

二階の教室までたどり着くと真希はそのまま机に突っ伏してしまった。

「お二人とも、おはようございます」

真希に続いて席に座ると、珍しく先にきていた松屋に声をかけられる。

そうういえば昨日帰ってからはどうだったんだろうか。

声と表情に何の暗さもないし、大丈夫かなとは思うけど。

「おはよう松屋。あれ、鈴木は?」

「お手洗いだそうです。家じゃ落ち着いてできないそうで」

口では咎める言い方だが顔は幸せそうにしている。

その表情がなんだか真希に似ている気がするからだろうか、
この分ならきっと二人はうまくやっていけるだろうと思えた。

もう俺たちの間に二人の闇は出てこない。

だから、俺は普通にしていよう。

「まだ日が浅いからな。そこは許してやっても良いんじゃないか」

「それはそうなんですけど。んー」

愚痴をこぼしたりないのか、何か話題を探すように首をかしげる。

その視線が俺から外れ、真希に移る。

座ってからそれなりに時間はたっているはずなのに、その顔はまだ赤い。

「真希さん、大丈夫ですか?顔が赤いですよ」

「今日はいつもより早足だったからな。疲れたんだろ」

「あら。どうしたんですか?」

心配した松屋がのぞき込もうとすると、よほど疲れているのか頭だけを持ち上げて、。

「今朝ね、一緒に朝ご飯食べたのー」

「まあ・・・。よかったですね?」

答える真希の幸せそうな顔。

それを見た松屋へも幸せは伝播していたみたいで、二人は自然と微笑みあっている形になる。

そんな二人を見ていると自然と恥ずかしくなってしまい、顔を背けてしまう。

美人の微笑みは、俺のようなやつにも十分に効果を発揮するみたいで。

松屋が初めて見せた表情はそういう意味では反則だった。

「どうしました?」

「別に」

見とれる寸前だった、とはどうしても言えなくて。

「翔くん・・・・。気持ちはわかるけど」

自分の席に座るなり脚をつねられる。

結構本気だったのかなかなかに痛い。

「真希、痛い」

「翔くんが悪いのー。あたしだってきれいだな、とは思ったけど」

いや、なんでばれる?松屋に見とれてたのは認めるけど。

それを言うならお前のさっきの顔もずいぶん----

「あら。真希さんもなかなかにおきれいだったと思いますけど?」

真希の俺をつねる手が止まる。力は入ったままで。

「松屋、冗談はほどほどにしてくれないと俺が痛い」

「翔君?」

真希の手にさらに力がこもる。

「あらあら、やきもちですか?」

そしてまた笑顔で不穏なことを言う松屋。

結局、鈴木が帰ってくるまでこの連鎖は続くことになった。