真希と別れてから十分ほどで銀行に着いた。
ここは家と学校からの距離が同じくらいにあって、学生のたまり場とは反対側にある。
その上近くに学校の類が無く、知り合いどころか学生すら見あたらない。
おかげでここには気楽に来ることができ重宝している。
反対側の銀行は歩いて五分くらいだが学生が多く行きづらい。
だから、自然と俺のような奴や中高年はこっちに集まってくる。
学生は自分がそうでなくなったとたんに驚異となったりするので当たり前の結果だろう。
誰もいないATMコーナーで向こう一ヶ月くらいの生活費を引き出し、さっさと銀行を後にする。
ここら辺の町並みはどうも寂れている。
小さめの商店にはこの時間にもかかわらずシャッターが閉まっているし、
近くに住んでるであろう子供の姿もない。
街中から少し離れただけでここまで違うのかと思うと少し寒気がする。
変なことを考えたせいか帰り道のシャッター通りが痛々しくて見られなくなり少し視線の向きを変える。
そこには使われなくなって久しい橋が架かっていた。
「ああ、川があるんだったか」
元々この地域は大きな川で二分されている。
橋の向こうとこっち側は一応同じ市なのだが、住民的には全くの別物。
それを悲しんだ数代前の市長が下流の方に川をまたいだ土地を作り、そこに新規の大型商店街を造った。
真希が今日行ったのもそこだろう。
中間地点に作られた新しい土地は思いの外人を呼び、そのとき作った借金は今ではほぼゼロだという。
そこには人が集まったが、それ以外の地域はこんなもの。
人が来なければ栄えるはずもなく、住宅街にもなれないこの地域はゴーストタウンになってしまった。
今は商業的な過疎地域に予算を回しているが、商店街に人気をとられたままではそれも無駄だろう。
「ん、久しぶりに橋に行ってみるかな」
それでも、小さい頃はここのあたりで遊んでいた気がする。
橋の下にはなぜかみんな引きつけられていて、全然秘密じゃない秘密基地ができあがっていたりした。
自分もそんな経験があったからか、懐かしくなってそこに自然と足が向いた。
橋に差し掛かったあたりで、足が止まった。
一歩ずつ近づく度、いつも見ていたあの夢が絡みついてくる。
口の中には血の味が、腹には鈍痛が再現される。
段々とそれらは強くなっていき、戻れと言う理性は姿が薄くなっていく。
胃がムカムカする。
原因に覚えのない頭痛に精神が削られる。
手には何かをつかんでいる感触。
足は地面をそうと認識せずに、モノとして脳に信号を伝える。
半分もなくなった理性は歩みを戻させるのに値せず、ただただ薄くなっていく。
理性が完全に消えるのと、橋の下に帰還するのは同時だった。
橋桁には、建てられからの年数とはかけ離れた新しさの塗装。
所々不自然に、長方形状に一部分が消されたセンスのない落書き。
----それらは全て、俺がやったもの。
----あいつらを踏みにじった証。
----そうだろう?
目の前に見知った顔。
忘れない。
忘れてやらない。
あれは絶対に忘れてやらない。
「よお、久しぶりだな?」