5.眼鏡
昨日、眼鏡を買った。
別に目が悪くなった訳じゃないけど。
そう、伊達眼鏡というやつだ。
目的はおしゃれじゃないけどね。
私は転勤を繰り返してばっかりで、それにつられて私も転校してばかり。
新しい学校になるたびに友達も増えて、今では三つの県くらいに友達が居る。
でも、もう新しい友達を作るのにも疲れた。
いい加減自分を作るのがいやになった。
新しい友達を作る時って、明るくしないと面倒くさいから。
そうしないと、誰も構ってくれないから。
どうせ、何ヶ月かしたら別れちゃうのにね。
眼鏡を買った理由はそれ。
二つ前の友達に、
「眼鏡かけたら暗く見える」
って言われたから。
転勤の知らせを聞いて、その言葉を思い出した。
私が見た限りだと、暗い人って大体友達多くないの。
そして、そのグループは相手にされないの。
だから、眼鏡をかけることにした。
もう、疲れたくないから。
考えはうまく行った。
二つくらい学校が変わって、友達の数は片手で数えられるくらい。
凄く楽だった。
明るく振る舞うのが、どれだけ疲れるのかがよくわかった。
家での振る舞いと全く同じ。
自分から喋らない、笑うのは周りに合わせてだけ。
もう、私から明るさはなくなっているはず。
誰も、私には寄ってこない。
私も、誰にも近寄らない。
ただ、それだけ。
高校になって、少し変わったことがいくつかあった。
親の転勤が無くなったこと。
これは別に肩を叩かれたとかじゃなくて、偉くなっただけ。
私が何も喋らなくなったこと。
それでいいやと思えるようになったこと。
そして、ある人に出会ったこと。
その人は、いつも私に話しかけてきた。
何も喋らず反応もない私に、何日も何日も。
だから、平日はその人に支配された。
流石に休日はなかったけど。
合う度にせがまれたので、根負けしてアドレスを教えた。
そうしたら、今度は休日までも支配された。
そこまでしてくるから、私はため息が多くなった。
何故私に接触してくるのか。
何で私なのか。
私は、眼鏡をかけているのに。
何度か幸せを逃がした後、気づくことがあった。
眼鏡をかけてから、私は誰かに関心を覚えただろうか。
誰かとの時間は、こんなに良い物だったのだろうか。
もう、良いのかもしれない。
転校もなくなった。
もしあっても、一人暮らしくらいは認めてくれるだろう。
三日前に来たメールに、生涯初の返信をする。
きっと今頃は心臓が止まっている頃かな?
明日、もっと驚かせてやろう。
話しかけてきたら、眼鏡を外して挨拶してやるのだ。
本当の私でお出迎えしてやる。
待ってろよぉ?
眼鏡は人を変えられるんだぞ。