10.川底





学校からの帰り道、つまり、登校ルートをさかのぼった道。

その道中に一本の広い川がある。

その川は浅くてきれいで、夏になると子供がよく遊んでいる。

しかし今の季節は夏の手前といったところで、川遊びにはいささか寒い。

だから、女の子が川に入って何かしているのには非常に驚いた。

着てる物はご丁寧に白いTシャツと青い短パン。

川遊びには持ってこいの服装も今の季節での川遊びには寒々しすぎる。

髪はロングで黒髪。かがむと水に着いてしまうため、半分くらいがぬれてしまっている。

その子供みたいな服装と大人びた髪のギャップが、なぜだか俺を引きつけた。

橋の上から奇行を眺める。

幸い、この時間ここら辺を通る学生はいないため二人をとがめる奴はいない。

五分ほど見ていた。

その間女はずっと川底をさらっているた。

まるで、何かを探しているようだった。

ときおりリズムを取っていたのでそんなに深刻な探し物でもなさそうだ。

だから、声をかけても大丈夫だと思った。

「おーい、なにやってるんだ?」

とがめるような感じにならないように気をつけた。

出来るだけ楽しく。混ぜてくれとつながっても違和感がないように。

行動が子供だと思ったからそうした。

子供みたいに接するのが最善だと思った。

「さがしものー!」

すぐに振り向いて手を振ってくれる。

その顔は笑顔で、川の冷たさなんて感じさせなかった。

もっと、話したいと思った。

「なにをさがしてるんだー?」

「キラキラしたものー!」

・・・・やめとけばよかった。きっと危ない子だ。

答えが抽象的すぎる。そんな物いくらでもあるだろうに。

しかしもう女の子の興味は俺に移ったらしく、俺の次の言葉を待っている。

しょうがない。ちゃんと話をしてやろう。







橋の上からだと大声を出さなきゃならないため、川沿いまで降りる。

「一緒に探してくれるの?」

近づいてきて、キラキラした目で問いかけてくる。

「いいや。話をしに来ただけだ」

「ちぇ、つまんないのー」

そう言って向こうに行こうとする。

そこで気がついた。女の子の唇の色が少しおかしい。

「おい、ちょっと待て!」

「なに?」

この距離でようやく分かった。このままだと確実にこの子は危ない。

「話に付き合ってくれたら一緒に探してやる。だからちょっと休憩、な?」

少し強引な話の持って行き方だけど、俺にはこういう持って行き方しか思いつかない。

少しだけ女の子は考えて、

「うん。少し疲れたしいいよ」

弾んだ声で返してくれた。

よし、早く川から上げないと。

川から出るように誘導して、岸に着いたところで鞄からタオルを取り出す。

いつも部活で使っている奴で、たまたま今日は部活が休みになったために未使用。

要らない荷物が出来てうんざりだったが、怪我の功名と言う奴か。

「ほら、これで髪拭いておきな?」

頭が濡れている訳じゃないから風邪を引くかは分からないが、とりあえず。

「ありがとー」

服装に似合った、無邪気な笑顔が代わりに返ってきた。

久しぶりに見た純粋な表情に胸が騒ぐ。

・・・彼女とうまく行ってないからなぁ。

彼女はつきあい始めた頃はよくこんな顔してたっけ。

いや、俺も、かな?

「どーしたの?」

目の前の声が沈んだ思考を再浮上させる。

ああもう、他の子のことを考えるのは失礼だろ俺。

しょうがなく、無理矢理に会話に入る。

「なんで川で捜し物?何か落としたの?」

「ううん。違うよ?」

「え?」

「おじいちゃんが、川がキラキラしてるのはきれいな物が川に落ちてるからだって」

そう言われて、初めて気づいた。

太陽の光がいい角度で当たっていて、水面は光り輝いていた。

「じゃあ、なんで見つかってないんだ?今もすっごくキラキラしてるけど」

「近くに行くと見えないんだって。だから手探りでさがしてたの」

「・・・」

「でも、一個も見つからないの。あんなにいっぱいキラキラしてるのに」

どうしてかな?と首をかしげる。

----きっと、この子はずっと探し続ける。

そう思った瞬間、頭が全力でキザな方へ向いた。

おじいさんよりもキザな台詞じゃないと止められない。

そして、こんな自殺行為に等しいことはやめさせるべきだ。

「きっと、触れないんじゃないか、それ」

「え?」

「きれいな物って、はかないんだよ。すぐに壊れる。
 だから、触った瞬間に壊れちゃうんだ。」

「わぁ・・・」

目が輝いてきた。よし、もう一押し。

「でも、きっと手には欠片が残ってるはず。
 長い間探したんだろう?じゃあ、その手は今キラキラでいっぱいなんじゃないかな」

言えた。すっげえ恥ずかしい。

そして俺が言い終わるなり少女は立ち上がり、

「ありがとう、お兄さん!」

ぺこりとお辞儀をして、タオルを持ったまま駆けだしていった。








昔、妹が宝物を無くした。

私はそれをずっと探していた。

いろんな人に聞いた。

そしたら知らないおじいさんに川に行きなさいといわれた。

だから、ずっと探していた。

ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。

結局、何も見つからなかった。



----翌日、長い髪を自慢にしていた少女が川から見つかった。

----ずーっと、昔のお話。