14.嘘の真実
瀬内翠。
形容詞は絵に描いたような、というのが一番似合う少女。
容姿、性格、頭脳。全てそれで説明が付く。
そんな女が俺の前だけでは本当の顔を、
「見せてるん、だよな?」
瀬内は寝ていた。
思いっきりいびきをかいて、腹を丸出しにして。
それでも涎を垂らさないあたり、まだ完璧に親父化はしていないらしい。
・・・あまり知られたくはないが、俺とこいつは幼馴染みだったりする。
子供の頃からこんな感じで、よく生き残れたな・・・。
子供は残酷だ。分別がないから見境がない。
だから、異端の排除も全力でやってくる。
それなのに、何でこいつはいじめられた過去とかがないんだ?
不思議だ。
---この部室でこれを考えるのは何回目なんだろうな。
「起きたら、少し聞いてみようかな」
それまでは俺も寝てよう。
「せんぱーい、寝癖の凄い瀬内さんが呼んでますよー」
「・・・・・・・うーい」
瑞葉の明る過ぎる声にたたき起こされた。
何を勘違いしたのか、瑞葉は「ごゆっくりー」、だそうだ。
それだけ言って、持ってきた鏡で化粧の練習をしている。
気を遣ってるんだか、興味がないんだか。
第一、あんな寝方する奴襲う気にもならんわ。萎える。
「翠、いったいなんだよ?」
「あたしが寝てるとき、なんか呟いてたでしょ?それに答えたげようとおもって」
・・・・そういや、こいつはこういうことが出来る奴だった。
翠は寝てるとき、まわりの会話を聞けるとかいう能力を持っている。
本人曰く、目覚まし時計で起きるのと原理は変わらないそうだが。
「呟くならもっとロマンチックなことにしてよねー」
「じゃあ寝相を直せ」
「やだ。ここにいる間は気を抜くの」
言うとおり、変になった髪型を直そうとしない。
「・・・何でお前が絵に描いたような美少女、で通ってるんだ?どう見ても問題児だぞ?」
「そっかー。あたしのことに興味ないもんねー。興味があったらとっくに知ってるだろうに。
ホント昔からそう。外でのあたしを知ろうとしない」
最初は拗ねて。でも、後で照れたような顔になる。
ずっとそうやってれば可愛いのに。
「俺に取っちゃ、俺の認識の翠は俺に対する翠しかいないからな」
「ほんと無気力よねー。だから良いんだけど」
「で、俺の質問には答えてくれるのか?」
「いいよ。んーとね、ここにいるあたしは嘘の真実なの」
「は?なにその矛盾した言葉」
「学校での顔は嘘。これはわかるよね?」
そう言って髪を押さえつける。
「で、ここにいるあたしは本当。つまり真実」
押さえつけた髪を話すと、とたんに爆発する。
「でもわかんないかな。嘘のあたしを見てない人には。
だって、本当のあたししか見てないから。嘘を知らないから」
「じゃあ、なんでそんなたとえをしたんだ?」
「いつも言ってるじゃない。物事を決めるのは多数派だって。
だから多数派の視点で物事を言ってみたの」
言い終わると、翠は瑞葉の元へと歩き出す。
時計は六時。
もう部活は終わりの時間だ。