16.トラック




CDの棚を当てもなく見渡すと、背表紙も何もないケースを見つけた。

何のレーベルも印刷されてない、真っ白なやつ。

データ用のが紛れ込んだのかなと思ったが、俺がそんなうっかりをするわけもない。

そもそもデータなら全部外付けかDVDだろう。

何が入っているのか見当もつかず、それを考えて時間を使うのは性分に合わない。

コピーしたCDの見出しの付け忘れだと言うことにして、俺はコンポに入れた。

中身は、少なくとも最初のトラックは、歌じゃあなかった。

まず聞こえてきたのは何かがこすれたような音。

紙を触っているような音もしている。

そこで気がついた。

これは、三年前に友達が残したCDだと。






そいつは昔からなんだか難しい病気にかかっていた。

それでも学校には来ていたが、休むことも多かった。

休みが多かったからといって、友達が俺しか居ないとかという訳じゃない。

あいつは、クラスの人気者だった。

それどころか入学後一週間もたたずに学年のアイドルになった位だ。

まあ、成績は悪かったが。

とりあえずあいつを知らない奴は学校に居なかった。

あいつはどんな奴とも付き合えた。

根暗な奴、気難しい奴、あほな奴、そして、俺。

その中でも、俺はあいつと人類で一番仲が良かったと思っている。

そんな奴が、いきなり姿を消した。俺に、一枚のCDを残して。

俺はすぐにそのCDを再生した。

中身は、俺へのメッセージだった。

CDは三トラックあって、一つ目はたわいもない独り言だった。

だけど、2トラック目は違った。

内容は、ひどく辛い物だった。

その中であいつは泣き叫んでいた。

あまりにもひどい録音環境だったのか、声は割れていて、とても聞き取れるものじゃあ無かった。

それでも、何を言いたいかが伝わってきて、それ以上は聞けなかった。





あれから3年、俺は少しだけ成長できたのだろう。

今の俺は、2トラック目を聞いてやれるようになった。

そして、3トラック目に入ることが出来た。

ここに、あいつは何を詰めたのだろう。

多くのアーティストがいろいろな物を詰めてきたここに。





結局、3トラック目は一分足らずだった。

だけど、とてつもなく重い物だった。

2トラック目が俺の全てだった、そう、あいつは残していた。

ただ、それだけだった。

言葉は軽いが、それがもたらした物は遙かに重い。

あいつを理解するためには、あれを理解するしかない。

そう教えてくれた。

確かに俺は、聞いてはやれた。

だけど、それは理解してるという物からはかけ離れた物だった。

結局、俺は1トラック分も成長していない。

俺は、いつになったら1トラック分成長できるんだ?

教えてくれよ、なあ。