25.必須事項




「はい。最後、ここサインお願いします」

今年、社会人になって私は一人暮らしを始めた。

大学卒業まではずっと実家で暮らしていたから、正直不安だった。

でもまあ、二ヶ月も経てば慣れるもので。

こうしてポイントカードを作ることなんかお手の物だ。

どうでもいいとこは嘘を書いて、本当に必要なところだけまともに書く。

ついでに、もし店の対応がよかったらアンケートに少しおまけをしておく。

うん。あの人の対応はよかったな。機械に詳しくない私に優しかったしね。

契約書なわけでもないし、ここら辺は処世術の一つだろう。

締めるところはきちんとするのが大人よね。

さらっとサインを済ませ、商品を受け取って店を出る。

今日は忙しい。この重たい荷物を部屋まで運んだら、今度は食べ物を買いにいかなくちゃ。





二週間くらい前、近くに大きなデパートができた。

その距離、なんと歩いて三分。

出来たときはあまりに人が多かったから行かなかったんだよね。

でも、今日なら空いてるだろうと踏んで私は向かう。

なぜかと言うと、今日は平日なのだ。

私の会社は毎週水曜日と日曜日が休み、と決まっている。

さ、早く行かないと。ものを食べないと人は死んじゃう。






予想どうり、というかあたりまえにあまり人は居なかった。

これでゆっくり選べるわね。あまり人の多いところだと焦っちゃうから。

私はいつも二週間分の食べ物を買う。

そうじゃないと、私らしくなくて落ち着かないのだ。

食べたいものだけをかごに放り込んでレジへ向かう。

あれ、時間余っちゃったな・・・。なにしようかな。

あれもやった、あれは来月までだし、あっちは・・・。

「−円になります」

あ、聞いてなかった。とりあえず五千円出しておけばいいや。

「ポイントカードはお持ちでしょうか?」

「いえ」

「ではあちらのカウンターで手続きをお願いします」

今日二回目のカード作成。

はあ、書くところ多いのよね、こういうのって。

えーと、絶対に書かなきゃいけないところは・・・。






無事カードを作り終わって、家に急いで帰る。

だって重たいんだもん。女の子は箸以上に重たいもの持ったらはしたないって決まりなんだから。

彼氏とかが居たら「重たいだろう?持ってあげるよ」とか言ってくれるんだろうなぁ。

ああ、いつもはいらないって思ってるのにこんなときだけ頭の中から出て来るんですか。

・・・危ない危ない。人間切羽詰ると何考えるかわかんないって本当ね。

でも、彼氏って人生に絶対必要では無いような気がする。

こうして重たいものもって無事部屋まで辿りつけてるわけだし。

それに、束縛されたくないもの。

うん。必要ない。がんばれ私。それでこそ私だ。








ご飯も食べ終わって、少しまったりと過ごす。

安物のアロマキャンドルなんか炊いちゃったりして。

この匂いを嗅いでからが私の本当のオフなのだ。

昨日買ってきた雑誌を眺めていると、欲しい物が懸賞に載っていた。

よし。すこし頑張ってはがき書こう。

ええと、必須事項を書いて、と。

宛名よし。住所よし。これで明日出がけに出せばおしまい。

それにしても今日はこういうの多いわぁ。

ポイントカード二つに懸賞。

意外と必須事項、ていうのは多いのね。

あ、じゃあこのアロマキャンドルもそうかな?私のオフの必須事項。

ふふ、何か楽しい。

じゃあ、あのアクセとか、ブーツもそうね。オフのときは絶対に付けるし。

そして、仕事のときの必須事項はあれで、あ、あれもあった。






もうこんな時間かぁ。寝ないと明日つらいなぁ。

じゃあ、私の寝る前の必須事項。

それは、頭の中の彼とデートすることだ。昨日は遊園地だったから、今日は公園に行こう。

今日あったことを全部話して、私の必須事項をぜーんぶ聞いて貰うの。

どんな顔して聞いてくれるかな。笑顔だったら、ううん。笑顔以外認めないわ。

じゃ、おやすみ。

そしてこんにちは。私だけの彼氏。