鈴木拓、さん。
そういえば、どこかで聞いたことある名前だと思いました。
こういってはなんですがありふれた名前ですので。忘れていました。
松屋家には及びませんが、それでも有名どころである一族のご子息ではないですか。
私と同じく末っ子ですので、家の中の権力は到底持てませんが。
それでも少なからず影響力は持っているはずです。
それに、一族の地域への影響力も侮れません。
たしか拓さんは次男さまと長女様とお仲がよろしかったはず。
ならば、すこし交流を持つのも悪くは無いですね。
正門前でお待ちしていましょう。
・・・あの噂が少し気になりますが。
程なくして、拓さんが出て来ました。
先ほどと同じく、だれとも関わろうとしない雰囲気を纏って。
「拓さん」
「え、な、なんですか?」
驚かせてしまったのでしょうか。返答がしどろもどろです。
迷惑なんでしょうか?
「ご迷惑でなければ、すこしお話しませんか?」
「い、いいですよ」
「ありがとうございます。それでは、歩きながらということで」
松屋家と鈴木家の家の方角は同じなはずです。これならばお互い気兼ねないはずです。
「拓さんは鈴木家のお方ですよね?」
聞くと、拓さんの態度が少し変わりました。
人を寄せ付けない雰囲気がいっそう強く。
この世に自分の存在を認めていないかのような口ぶりに。
でもそれは、あまりに私に心地よいものでした。
「ばれちゃったんですね。よくある名前だから大丈夫だと思ったんですけど」
「なぜ隠すんですか?松屋家のことは知っているはずでしょう?」
「もちろん。僕が親戚中の家からなんていわれているかもね」
それが聞きたかったんでしょう?という目で私を見てきます。
「誤解です。私はただあなたと交流が持ちたかっただけです」
「信用なりませんね。いつもそうやって騙されてきたので」
「私も、あなたと同じなんですよ?」
「たしか、僕と正反対の呼ばれ方だったはずですが」
これは、だめですね。また出直しましょう。
「この話は、ここで終わりにしましょう。お互いによい事になりませんし」
「お互い傷を深めるだけ、ですか。僕のほうが被害が多い気がしますが」
「・・・それではまた明日。次は実の有る交流を持ちたいものですね」
「同じ結果だと思いますが」
そういって私たちは別れました。
明日、ですか。なんて不確実な。
本当に話し合いの場を持ってくれるのでしょうか。
少し切り口を間違えましたね。非礼を詫びなければ。
さあ、話題を考えておかないといけませんね----