昔、一人の男の子がいました。
男の子は、勇者でも賢者でもありません。
どこにでもいる普通の男の子でした。
よく笑ってよく泣いて、友達のたくさんいる子でした。


男の子は誕生日にみんなから贈り物を貰います。
それは、かっこいい服だったり、おいしい食べ物だったりしました。
お誕生日会が終わって、お友達が帰った後、男の子はお爺さんに呼ばれました。
お爺さんは、手に不思議なものを持っていました。
どうやら、お爺さんからの贈り物だそうです。
男の子は、それはなにかと聞きました。
お爺さんは、
「これはね、天秤といって重さを量るものなんだ」
男の子はそんなもの面白くないからいらない、と言いました。
でも、お爺さんは怒りませんでした。そして、変わりにこう言いました。
「貰ってくれなくていいんだ。でも、これだけはしておくれ」
「嬉しいことがあったら右側に、悲しいことがあったら左側に」
「その分だけ錘を置きなさい」
男の子は訳がわかりませんでした。
でも、お爺さんが大好きだったのでそのとうりにすることにしました。


最初は、右側にばかり錘が置かれました。
お爺さんはすごく喜んでくれました。
でも、泣いておうちに帰ってきたときや、
怒って帰ってきたときは左側に置きました。
その時、お爺さんは話を親切に聞いてくれました。
いつも天秤は右に傾いていました。


男の子は大きくなりました。
天秤は、大分つりあうようになって来ました。
そんなとき、お爺さんが寝込んでしまいます。
天秤は左に傾いて、右側に錘は置かれなくなりました。


ある日、お医者さんが来て何かお話をしていきました。
その日から、男の子はお爺さんと会えなくなりなした。
左側の錘はだんだんと増えていきます。
でも、それが何の意味かみんなにはわかりません。
そのころから、男の子はだんだんと元気が無くなってきました。

それからしばらくたって、天秤の傾きはもう限界になりました。

天秤が壊れそうになった頃、お爺さんは死んでしまいました。
お葬式が終わっても、男の子は泣き続けます。
もう涙も無くなったころ男の子は天秤に錘を載せました。
すると、天秤は壊れてしまいました。

その日から、男の子は笑わなくなりました。
ずっとずっと笑わなくなりました。
天秤と一緒に、心も壊れてしまったからです。

友達はずっと励ましてくれます。
おかしなことをして笑わせようと努力してくれました。
いろんな話もしてくれました。
でも、男の子の心にはとどきません。

もうみんなが疲れた頃です。
一人の女の子が天秤のことに気づきました。
女の子は必死に天秤を直そうとしました。
でも、まだ子供の女の子には難しいことでした。

女の子は必死に勉強しました。
天秤は複雑な作りをしていたからです。
ようやく直せる様になったころ、一年が経っていました。

女の子は友達と一緒に頑張って天秤を直しました。
直った天秤を男の子に見せると、男の子は笑ってくれました。

それから何年も経って、男の子は立派な男の人になりました。
天秤を直してくれた女の子をお嫁さんにもらって、幸せに暮らしました。

天秤は、まだ男の子が大切に持っています。
いつかお孫さんが出来た時、その天秤を受け継いで貰うためです。

お爺さんが、そうしたように。
大切なものを、伝えるために。